■ 長岡鉄男と「スワン」 (2000.6.3)

5月30日asahi.comの素っ気ない訃報でオーディオ評論家 長岡鉄男の死を知った。独特の眼光鋭い風貌が忘れられない。実際若い頃はその筋の人間と間違われたそうだ。ここ数年、雑誌の写真では、ちょっと疲れているなという感じはあった。それにしても74歳とは残念。あの辛口の批評をまだまだ聴くことができたはずだ。

長岡鉄男が長年追究したテーマは、「コストパフォーマンス」と「自作」。いま手元に『ステレオのすべて'74』(音楽の友社、昭和49年)という雑誌がある。

最初の特集は「組合せSYMPOSIUM74」とある。何人かの評論家がステレオのコンポーネント(スピーカー、アンプ)をあれこれと組み合わせて、最適なシステムを提案しようという試みである。自分の選んだシステムの特徴を述べ、他人の組み合わせたものを、ちくちくと批評するのである。

既に28年前の記事、当時48歳。長岡鉄男が登場するのは、「もし30万円の予算でコンポーネントを組むとしたらどうすればよいか」。どちらかというと、廉価版システムの担当である。
長岡鉄男の発言を拾うと。
・「ぼくの第一の組み合せというのは、やっぱり十万どまりの安いやつ」
・「お金をかけなくっても、ビックリするようなコンポーネントはできますよ」
・「ローコストでもって、万能型のオーソドックスな質のいい音をねらった」
徹底的なコストパフォーマンス主義者の発言である。

この雑誌のもう一つの特集は、「長岡鉄男十八番教室 自作派のためのスピーカー・コース」。当時から彼のスピーカー記事は人気があった。ベニヤのサブロク合板を合理的にカッティングしユニークなスピーカー・システムを作り上げる。姿形もそうだが、その音にも独特のアピールがあった。一言でいえば、「パンチの効いた元気の良い音」か。

特集記事では、お得意のバックロード・ホーンを中心に、製作手順をカラー写真で説明している。親切な記事である、誰でも「ボクにもすぐ作れるな」という感触を与える。本来サービス精神にあふれているのであろう。東急ハンズは、越谷方向に足を向けて寝れないはずである。

長岡鉄男の考え出したユニークなオーディオ・システムは枚挙にいとまがない。日本のオーディオ界に与えた影響は大きい。
積層板型レコードプレーヤ。合板を積み重ねる。今でもメーカー製を含めてこれ以上の方式は無いと言えるほどだ。
・重量信仰。たとえばアンプの上に鉛のインゴットを置いて徹底的に振動を抑える。最初は、「鉛で音が良くなるなんて!?」と馬鹿にされたもの。しかし今やどのメーカも、アンプの重量を第一のセールスポイントにしているほどである。

長年挑戦し続けたスピーカー・システムの設計・製作で、最大の傑作は「スワン」と称するバックロード・ホーンであろう。コンセプトは次のようである。
・音場を忠実に再現するために点音源を目指す
・小型(10p)スピーカー1発でネットワーク不要のシンプル構成
・音源の高さを耳の高さにそろえピンポイントで焦点を結ぶように

出来上がったスタイルは、四角な箱に長い首をもったスピーカーをつないだ異様なものである。とても「白鳥(スワン)」のイメージではない。音はフル・レンジの良さを発揮して素直である。低音はバックロード・ホーン独特のゴーゴー感がある。ちょっと古い雑誌記事(『FMファン』だったか)が見つからないのだが、あの立花隆がこの「スワン」を絶賛していた。自宅にまで持ち込んだ写真があった。

◆長岡鉄男氏(ながおか・てつお=オーディオ評論家、本名冨岡寿一=とみおか・じゅいち)29日午後4時6分、肺炎のため埼玉県三郷市の病院で死去。1926年(昭和1年)東京・青山生まれ、74歳。自宅は埼玉県越谷市下間久里886の51。






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